Show Reports

FISHBONE(2000年11月2日心斎橋クラブクアトロ)

 上下に揺れる床。後から激しく体当たりされて息が詰まる感覚。頭の上を通り過ぎていくダイヴァー。そして、ジョウロでまかれたように降り注ぐ汗…。ライヴ評を書く時は、たいてい一歩引いた位置から冷静にショウを見ているのが普通だ。しかし、自ら人混みの中に分け入り、周りの客と激しくぶつかり合い、もみくちゃになりながら体験したライヴの感想を書く(そして、それを読む)というのもけっこう面白いものだと思うし、そのライヴがFISHBONEのものだとしたら、逆にそのような「現場でもまれた」クリティックの方が、よりショウの本質に迫ることができるような気もする。いずれにせよ、今回のライヴで、ぼくはほぼ一貫して最前列ど真ん中に陣取って見ていたし、汗だくになりながら踊り、声が枯れるまで歌い、叫ぶ…そういった見方をしていた。もっとも、うしろで冷静に見るつもりなど、最初からなかったのだが。

 ぼくがロックを聴いていなかった時期に来日していないとすれば、おそらく8年振りくらいになるFISHBONEの公演。フジロックには出演していたが、WOWOWで放送されたものを見た限りでは、あまりいいライヴという印象を持たなかった(FISHBONEのファンばかりではないし、しょうがないのだろうが)だけに、今回の単独公演は期待と同時に、かなりの不安感もあった。年齢的にも激しいライヴをやるにはキツいはずだ。しかし。結論からいうとこのバンドは、そんなつまらない心配など、こともなげに吹き飛ばしてくれた。大幅なメンバーチェンジを経たにもかかわらず、ライヴにおける躍動感、ポジティヴなエネルギーは、いっこうに変わっていなかった。8年振りに観るという感じが全然しない。

 会場は、心斎橋の「クラブクアトロ」。昔はよくこのライヴハウスにライヴを見に来た。大きすぎず、小さすぎず、客席後方はゆるやかな階段状になっていて、ステージが見やすい構造になっている。全体的な雰囲気も感じのいいアメリカンなバーといった風情で、悪くはない。割と好きなハコなので、そこでFISHBONEのショウが見られるというのは、うれしい。開演10分前に会場に入ったのだが、意外に客の入りはまだ少なく、みんなイスに座ったりして、まったりしている。「なんだよ」と、少し腹が立ったので、ステージ前に立ち、腕組みをして直立不動の姿勢で公演開始までの約40分間を過ごした。もっとも、ショウが始まる頃には客はステージ前に集まってきていたが。30分押しでライヴ開始。

 1曲目の「Party At Graound Zero」から客もメンバーもヒートアップしている。さっそくダイヴ続出。えー、この日のライヴ全体では、推定150ダイヴ(mine-D調べ)という数だった。ステージに向かって右手にB.のノーウッド、左手にVo.、ホーンのアンジェロ、中央やや後方にはホーン、Vo.のウォルター。そして、ノーウッドの右には新メンバーのスペイシーT(G)、アンジェロの後方に同じく新メンバーのジョン・マックナイト(トロンボーン、Kbd.)、中央奥手にこちらも新メンバーのジョン・ステュワード(Ds.)が控える、という隊列を組んでいる。アンジェロは、昔ジミー・ペイジが使っていたような、手をかざすと音が鳴る発信器のような装置(後ほど名称判明。「テルミン」ですな)を側に置き、事あるごとに奇妙な音を発していた。

 新メンバーについて。Ds.のジョン・ステュワードはスキンヘッドの強面ブラックだが、非常に手堅い印象を持った。ジョン・マックナイトは、キーボード、ギター、トロンボーンと次々手を変えて職人ぶりを見せつける。FISHBONEのサウンドにとって、彼のような存在は不可欠だと言えるだろう。ギターのスペイシーTは途中間違えたりもしていたのだが、技術的にかなり高いレベルにあると感じさせられた。相当「できる」人だと見た。

 当然といえば当然だが、やはりニューアルバムからの曲が多い。「Everybody Is A Star」「It All Kept Startin' Over Again」「Dear God」あたりを除いて、全部演っていたのではないか。他にはキャリア全般に渡ってまんべんなく演奏されており、選曲という点では、ほぼ満足できた。もっとも、ぼくがむちゃくちゃ好きな「Bonin' In The Boneyard」を演ってくれなかったのは残念だったが。アンコールの時に曲名を叫んでリクエストしたのだが、聞き入れてはもらえなかった。

 前半は真ん中2列目くらいの位置にいたのだが、前にいたのが女の子で、体重をかけるわけにもいかず、客席とステージを区切る柵に手をついて、後方からの圧力にひたすら耐えている、という状態だった。それにしても、やはりおそろしい勢いで後から押されるので、その度に息が詰まる。頭の上を通ってステージと客席の間に落ちていくダイヴァーも多い。後にG.のスペイシーTの指摘で気づいたのだが、その柵の根元部分に激突してどこかを切った客がいたようで、床に流血の跡があった。かなり壮絶なライヴといえばいえる。もっとも、この手のライヴに慣れている客ばかりのようで、激しいモッシュ、ダイヴはありながらも自制のきいた暴れ方で、誰か倒れていたらすぐに助け起こす、といった「マナー」も、きちんと守られていた。

 前半、「Where'd You Get Those Pants」では、パンツをはいた女の子をステージに上げる、といった趣向が見られた。また、「Ma And Pa」では、もはや「お約束」ともいえる、アンジェロの「客席ダイヴ」が見られた。そのまま客席後方まで泳いでいって、テーブルの上に立ち、ひとしきり歌った後、またダイヴでステージに戻ってきた。前回のライヴ、モーダ・ホールで見たときも思ったのだが、これができるアーティストはなかなかいないと思う。ぼくが先日レンタルした「ザ・ベスト・オヴ・フィッシュボーン」というベストアルバム、「トゥーレ」というライターのライナーノーツの中で紹介されている、かつて活躍した黒人ヘヴィ・ロックバンド「Living Color」のギタリスト=ヴァーノン・リードによる、こんな逸話を紹介したい。

(前略)リヴィング・カラーのシカゴ公演で、どうやったのかまるで理解できなかったがアンジェロがスピーカーの上によじ登ったことがある。その高さは並でなく、それを観た関係者は一同に「一体あいつは何をやってるんだ?!」と即座に固唾を飲んで彼を見守った。スピーカーの一番上まで登ってしまったアンジェロを観て、我々はステージ脇から7メートルぐらいはあるとか、8メートル以上だとか、ホンキで心配したんだ。ああ、あいつ正気を失っちゃってるに違いないよって感じだった。何も考えないで、きっとああなっちまって…と僕が様々な想いを巡らせていることをよそに、客席にそのままダイヴしてしまった。あんな愚かなことをするヤツは初めて見た…その瞬間、彼は死んでいたかもしれないのに。彼は文字どおり、自分の生命を観客の愛に委ねたのだ。もし、ファンが彼の体を受けとめなかったら…あの高さから落ちることは、自分の人生を投げることを意味していたのだから。彼がダイヴした瞬間、そこはモッシュピットのように騒然となった。落ちたと思われる場所に、まるで体の細胞の一つ一つが、例えば数え切れないほどの白血球が外部からのバイ菌を退治しようと一カ所に集まるように、アンジェロが落ちるであろう位置にそこをめがけてファンが殺到したのだった。(後略)

 歳のせいなのか、こういう話を聞くとつい涙腺がゆるんでしまう。この話は、このバンドが一貫してファンとの間に築いてきた信頼関係を物語るものであり、それは8年というブランクを経ても、なんら変化するものではない、ということだ。うれしくなってくるじゃないか。

 アンジェロもノーウッドも、一曲目からすでに全身汗だくだ。それでも休む間もなく次々に曲を繰り出してくる。体力的な衰えなど、微塵も感じさせない。前半の個人的なピークは、「Shakey Ground」だったのだが、客はもうひとつ盛り上がっていなかった。どうもこの頃、自分が盛り上がる曲と、他の客の盛り上がる曲が微妙に違ってきているようだ。やはり歳のせいなのか。まあ、いい。さほど盛り上がってない周りの客にモッシュをかまして思いっきり暴れ回ってやった。なんで踊らねーんだよ、このディープなファンクで。気がつけば、知らない白人と肩を組んで「Shakey Ground, Shakey Ground!」と歌っていた。

 途中からは前にいた女の子が移動したので、最前列の位置を確保できた。ちょうど、ど真ん中だったので、アンジェロがしょっちゅう目の前に来ては客席に身を乗り出して歌う。ライヴではいつものことなのだが、アンジェロのズボンを吊すサスペンダーの長さは絶妙な長さに調節されており、ちょうどうまい具合に「半ケツ」が拝める状態になっている(もちろん、ノーパンだ)。今回のライヴでアンジェロを何度も目の前にして分かったことは、あの長さはちょうど、彼の陰毛上部も拝める、ということだった。や、下品な話題で申し訳ないが、アンジェロの場合はケツも陰毛もほれぼれするほどキレイなのだ。他意はないことをご了解願いたい。アンジェロに握手もしてもらった。

 せっかくの好位置をキープしたいという理由もあって、終始一貫してダイヴで後方へ飛んでいく、ということはしなかったのだが、中盤の「Fleddie's Dead」ではガマンできなくなって、いったんステージに出てから、客席へ飛び込んだ。その際、腰から落ちて、尾てい骨をしこたま打ってしまい、しばらく腰痛に悩まされることになった。もちろん、腰の痛みだけではなく、暴れ回ったせいで全身筋肉痛に苛まされ、翌日、翌々日あたりはちょっと動くだけでも声をあげるくらいだったのだが(…)。

 このバンドの音楽的魅力について。ライヴには、ダイヴやモッシュをやるために来ているお客さんが多いのは事実だし、そのことをここで批判しようという気はさらさらない。ぼく自身そういう面は確かにある。ただ、個人的にブラックミュージックが好きでよく聴くぼくとしては、このバンドの、いわばトラディショナルなブラックミュージック的側面に目を向けてほしい、と思ってしまうのは事実だ。パンク、ハードコア的側面、そしてスカはもちろんこのバンドの魅力の一つではあるけれども、一方でバンドの中に歴然として存在する、昔ながらのソウル、R&Bといった、豊穣な黒人音楽的素養を理解すれば、よりFISHBONEというバンドの本質に迫れるような気がする。そうだな…例えば、スティーヴィー・ワンダーが、いきなりパンクをやったら驚くだろう?ぼく的にはそれほど違和感を感じさせるようなすごい体験なのだ、FISHBONEを聴く、ということは。スカをやっていても、例えば「Fight The Youth」のようなハードな曲をやっていても、このバンドの出す音の底辺には確固としたグルーヴ感が脈づいており、そこが大きな魅力なのではないかと思う。

 アンコールは2回。好きな「Everyday Sunshine」をやってくれたのがうれしかった。アンジェロは以前なにかのインタヴューで、自分たちのやってることは基本的にブルーズだ、という話をしていたが、この「Everyday Sunshine」などは、そうした思想が如実に表れている、まさに名曲だと思う。ハードかつヘヴィな現実を嘆きつつも、いつかもたらされるかもしれない「救済」、いつか実現するかもしれない「嘘や偽りのない世界」を希求する…この世界観はまさにブルーズだ。

 ぼくは以前「ヘラヘラ笑ってライヴをやるアーティストが許せない」という旨のライヴ評を書いた。アンジェロもライヴではしょっちゅう笑うが、その笑いの持つ意味は大きく異なる。アンジェロが客の方を見て「ニヤリ」と笑うとき、その眼の中には常に「狂気」が宿っている。オーディエンスとの安易な一体感を求めようとするヘラヘラした笑いとは、まったく次元が違うのだ。ポジティヴでありながら、同時に限りなく変態でフリーキーでもある、その点もこのバンドの大きな魅力だと思っている。

 今回のライヴ、ぼくは十分に堪能できたし、メンバーチェンジにもかかわらずまったく変わっていなかったことで、大きく勇気づけられた気がする。ほんとにうれしかった。今、かなりFISHBONEのファンサイトを作りたい、という気持ちになっている。というのも、ぼくの知る限りでは日本にFISHBONEのファンサイトというものは、まだ存在しないからだ。「おれが作らなくてどうする」とさえ思うのだが、ぼくは以前持っていたCDを売ってしまっているし、バンドヒストリーなどについても、さほど詳しいわけではない。今からCDを買い集め、情報を集めていくとなると、相当時間がかかってしまうだろう。どなたか彼らのファンで音源や情報を提供してもいいという方、共同でサイトを起こしてみる気はないだろうか。このままマイナーで埋もれさせるには、あまりにももったいないバンドだと思うし、彼らに対してぼくができることは、それくらいしかないと思うからだ。

個別リンク:http://www.mine-d.com/article/archives/2004/06/fishbone2000112.html|