Disc Reviews
Strays/Jane's Addiction
今ロックバンドをやっている人は大変だろうな、と、時々思う。これだけ様々なスタイルのロック音楽が溢れている世の中で、あらゆるロック的手法が試し尽くされたように思える状況の中で、革新的な音楽を創り出していくのは、ものすごく大変な事だろうと思うのだ。流行っているスタイルのコピーをやって平然としていられるようなミュージシャンならまだ楽だろう。だが、本当に意味のある音楽を創りたい、新しいスタイルを創出したいと思っているミュージシャンにとって、今の時代というのはあまりにも酷なのではないか。そう思う。何をやっても過去に誰かがやった事の繰り返しになるだけだ。
80年代後半から90年代初頭にかけて、「オルタナティヴ」という名前で括られる、いくつかのバンドが生まれた。硬直化してつまらない音楽ばかり量産している既存のメインストリームに対して「何かそれとは違うもの」を提示したバンド達。それまで見たこともないような新しい価値、新しいスタイルを示した。そんな「オルタナティヴ」なバンドのひとつが、今回10年以上のブランクを経てオリジナル・アルバムをリリースした、このジェーンズ・アディクション(以下JA)だ。
10何年かを経た末に今、シーンで起こっているのは、本来の「オルタナティヴ」がメインストリーム化するという矛盾だ。JAや、ニルヴァーナ、スマッシング・パンプキンズといったバンドが作り上げてきた「サムシング・オルタナティブ」を、希釈して商品化し、マニュアル化し、汎用化し、量産して成り立っているのが今のロックシーンだと言える。冒頭で述べたように、こうした時代にロック・バンドをやっていく事は難しい。あなたがペリー・ファレルなら、なおいっそう難しいだろう。あなたや、バンドメンバー達がかつて作り出した音の粗悪なコピーが市場には多く出回っている。そんな中へ「ジェーンズ・アディクション」として切り込んでいくのだ。新譜を出したところで、自らのフォロワー達の中に、自分達の音が埋もれてしまう危険がある。「伝説のバンド」のままでいた方が、ずっと楽なはずだ。
しかし、ペリー・ファレルはあえて冒険に出た。まっこうから「バンド」JAに向き合い、今の時代に自分達の存在を問うた。結果として届けられたこの「Strays」は、非常にクォリティの高い、素晴らしい作品に仕上がっている。
このアルバムが成功している原因のひとつは、ペリー・ファレルが真正面から「バンド」としてのJAの可能性にこだわったところにあると思う。もともと「バンドマン」というよりは「アーティスト」であったペリーは、初期の段階からそうした特質を露わにしていた。そうした姿勢は、JAに「バンド」としてだけの価値を求められる事を、ひたすら拒否しているようにも感じられた。彼のソロ作を聴くと、そうした姿勢をよく理解できるだろう。だが、この作品に限って言えば、彼は自らのそうした傾向をバッサリと切り捨て、ひたすらロック・バンドとしてのJAの可能性を追求しているように思える。民族音楽もドラムンベースもなし。かつて物議をかもしたジャケットアートもなし。バンドの枠から逸脱せず、その範囲内で極限まで可能性を探った事が、良質のロック・アルバムとして本作を成功させている最大の原因だろう。
スケールの大きい音世界。リフを主体とした音作り。ファンク・グルーヴ。デイブ節、ペリー節、スティーヴン節…。「JAの音」を求めていたぼくのようなファンを唸らせるには十分過ぎる作品だと思う。正直、ここまでのものを出してくるとは思ってなかったのだ。当たり前のような顔をしてバンドの音を進化させている。こんなもの、10年以上ブランクのあったバンドが作るアルバムではない。驚異的だと思う。
もうひとつ特記しておくべき事は、このアルバムがあくまで「売れ線狙い」の音作りをしている事だ。以前の作品と比べると、シンセの多用が特徴として挙げられると思うが、デイヴの弾くリフのキャッチーさなども相まって、非常にアピール度の強い曲ばかりが並んでいる。ほとんどの曲が、シングルカットしてそのままラジオでエアプレイしてしまえるくらいだ。「孤高のカリスマバンド」に収まるのではなく、積極的に「売れる」努力をしているのは評価に値すると思う。それでいて、けしてリスナーにおもねた音作りをいるワケではないところも素晴らしい。
もちろん色んな見方があるだろうが、ぼくはこの作品を全面的に評価する。もし、まったくJAの事を知らない人がいて、その人にアルバムを勧めるとしたら、まずこのアルバムを聴いて、それから過去の作品に遡る聴き方を勧めたい。「代表作」と呼んでいいくらいの作品だと思うからだ、この「Strays」は。
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