Disc Reviews

To Record Only Water For Ten Days/John Frusciante

 たとえばあなたはアーティストだとする。自分の作った曲をたくさんの人に聴いてもらいたいと思う。だけど本当に多くの人に聴いてもらうためには、マスな流通産業の流れに自らの作品を乗せなければならない。そこであなたは考える。売れるための方法を。覚えやすいキャッチーな曲を作ろう、いいプロデューサーにプロデュースを依頼しよう、ヴィデオクリップに金をかけよう、今流行ってる音を取り入れよう、派手な宣伝を打とう…。そうした喧噪のただ中で、あなたは自分のアーティスト活動本来の目的を見失ってしまう。実際、ぼくらが日々聴かされている音楽の大多数はそうした思惑をはらみ、過酷な競争をくぐり抜けた末に届けられたものだ。ぼくらは完成度の高い、耳障りのいい音楽にすっかり慣らされていて、それが普通のことだと思っている。でも、時にまったくそうした次元から離れた音楽に接するとき、ぼくらは普段自分が聴いてる「商品化された」音楽の意味を考えることになる。そう、このアルバムを聴いたときのように。

 ぼくがこの作品を評するのは、すごくむつかしい。なぜなら、ぼくがこのアーティストを一度は見捨てた人間だからだ。ジョン・フルシャンテがRHCPを脱退した後、リリースしたファーストソロアルバムをぼくはレコードショップで見かけている。だけど、迷った末けっきょく買わなかった。ジョン・フルシャンテファンサイト「Fragile Guitarist」のB坊さんなど、彼がバンドを離れてからもずっと追いかけ続けていた人はいる。バンドに戻ったからといって、なぜ今になって新作を買い、それを批評しようというのか。ファースト、セカンドは買おうとしなかったくせに。

 そういう訳なのでぼくはファースト、セカンドを聴いていないし、このアーティストの本質についてさほど深く理解している訳ではない。いいわけがましくなるが、どうかその点は分かっていただきたい。

 この作品ときちんと向き合うことは、けっこうしんどい。覚えやすいキャッチーなメロディーに浸ることもできないし、カッコいいギターリフや爆音サウンドにカタルシスを感じることもできない。ただ、無作為に並べられたむき出しの「歌」と直面せざるを得なくなるのだ。レコーディングはジョンのギターと歌の他には、ジョン自身がコツコツ作り上げた「打ち込み」の音のみだし、録音状態もお世辞にもいいとはいえない。もちろん、金をかけてスタジオミュージシャンを雇い、いい機材を使って作ればもっと「しっかりした」アルバムを作ることはできただろう。個人的にはそうしてほしかったと思っている。だけど、彼にとってそんなことはおそらくどうでもよかったのだろう。それよりは、(おそらく自分自身のために)「やらずにはおれない」音楽表現を、いかに自分が納得できる形で歌にし、作品として残すか…そういったヴェクトルにしか彼の意識は向いていない気がする。

 冒頭の話で言うと、この作品は最初からマーケットで大量消費される「商品」として扱われることを拒否している。いや、商品であることにまったく無頓着だと言った方がいいだろう。収録されている楽曲は、あくまで彼自身に向かって歌われている印象が強い。その意味で、この作品は限りなく個人的な作品だといえる。では、これは完全に「閉じた」アルバムなのだろうか。

 しかし、彼は今回のアルバムリリースに際して受けたインタヴューで「音楽で人をハッピーにさせる」ことに言及していた。これを「エンターテインする」事と同義だとして、その観点からこの作品を振り返ってみれば、もちろんエンタテイメントにはほど遠い世界だ。もちろん、「一般的な尺度ではかれば」の話だが。だけどこれは、きっと彼なりの精一杯のサービスなのだろう。もしジョンにその事を問えば、にっこり笑ってこう答えそうな気がする、「うん、すごくエンタテイメントだろう?」と。この辺りが、この人の純粋さというか人のよさというか、ファンがどうしようもなく愛してしまう魅力なのかもしれない。

 作品によってふさわしい聴かれ方というものがあるのかどうか分からないが、これらの曲がラジオでプレイされたり、レコードショップでBGMとしてかかっていても、よさは分からないような気がする。やはり夜中に部屋で一人、ヘッドフォンで聴く…こういう聴かれ方がふさわしいように思う。あと、歌詞カードを見ながら聴いた方がいい。輸入盤には対訳がないから…と思う人でも、分からないなりに歌詞を見て聴いてみればいい。何か確実に食い込んでくるものがある。

 当たり前だが、これはあくまでジョン・フルシャンテという一人のアーティストの世界であり、RHCPのギタリストとしてのジョンの世界とはほとんど「まったく」次元の違う世界だ。輸入盤CDにデカデカと貼られたシールに「JOHN FRUSCIANTE OF THE RED HOT CHILI PEPPERS」と書かれている(もちろん「売る」ためのものだ)。「これはいらないだろう」、そう思った。

個別リンク:http://www.mine-d.com/article/archives/2004/06/to_record_only.html|