Disc Reviews

Attention Dimension/Jack Irons

RHCPのオリジナル・ドラマー、またパール・ジャムでの活動でも知られるジャック・アイアンズの初ソロ作。旧友のアラン・ジョハネスがヴォーカル、ギター、その他種々様々な楽器で全般に渡ってサポートしている他、ナターシャ・シュナイダー(「Eleven」というユニットをアラン、ジャックと共に組んでいた)も数曲にピアノ、コーラス等で参加、RHCPからはフリー、パール・ジャムからはエディ・ヴェダー、ジェフ・エイメント、ストーン・ゴッサードが、さらにプライマスのレス・クレイプールなど、蒼々たる面子のゲスト陣を迎えて制作された。オフィシャル・サイト(http://www.jackirons.com/)にジャックが記した紹介文によると、1999年頃から作り始められていた事が述べられている。

アラン・ジョハネスは、高校時代からジャックと故ヒレル・スロヴァクが在籍していた「What Is This」(二人はRHCPとこのバンドを掛け持ちしていたが、古くから参加していたWhat Is Thisでメジャー・デヴューする事を決めたため、RHCPデヴュー時にはジャックとヒレルが抜けていた経緯がある)というバンドの中心人物で、前述したようにElevenでもジャックと活動を共にしていた。ブックレットの謝辞でジャックが述べているようにジョハネスのこのアルバムにおける働きはすばらしく、与えた音楽的ヴァリエイションの大きさから考えても、その貢献度は計り知れないものがあると言える。

実に多彩な音楽性である。アフリカン・ビートやアジア民族音楽の影響がはっきりと表れた曲(「Suluhiana」「Dunes」「Breaking Sea」など)では、様々なパーカッションが使用されており、パーカッショニストとしてのジャック・アイアンズの魅力が色濃く反映されている。また、「Hearing It Doubled」「Shine On Your Crazy Diamond」(ピンク・フロイドのカヴァー。エディ・ヴェダーがヴォーカルを担当)、「Come Running」などの「歌もの」もそれぞれ非常によく「練られた」印象で、歌あり/歌なしの曲のバランスもよく、アルバム全体としてまったく飽きが来ない構成だと言える。

ジャック自身はドラム、パーカッションに専念しているのかと思っていたのだが、ギター、シンセサイザー等を自分でこなす上、前述の「Come Running」ではヴォーカルも披露している。ほとんどの曲はジャック自身によって作られているようで、意外な音楽的才能に驚かされる。

特に「Underwater Circus Music」や「Water Song」などに顕著だと思うのだが、ファンクとはまた違う、この人独特のグルーヴ感というものがあるのではないかと感じさせられる。同じリズム・パターンを繰り返す事によって生まれてくる「うねり」がグルーヴなのだが、この人の場合は一度知ってしまうと癖になるというか、不思議な魅力に満ちたグルーヴ感を出してくるので、知らず何度も何度も聴いてしまう事になる。ちなみに、先述したオフィシャルの紹介文によるとジャックは本作において「ループ」を、1曲を除いて一切使っていない。つまり、繰り返しのリズム・パターンでも、最初から最後まできっちり叩いているのだ。

先ほどから出てくる曲名からも分かる通り、この人は間違いなく「水」のイメージが好きなのだ。最後に「Aquaman's Electric Band」という曲が収録されているので勝手にジャックの事を「アクアマン」と呼ばせてもらうことにするが、そのアクアマン自身によるアルバム・アートには鯨やイルカが描かれている。で、普通「水」「海」といったテーマなら青を使いそうなものなのに、なぜかサイケデリックな色調ばかりで、描かれている人物はなにか虚ろで能面のようでもある。こうしたある種の「狂気」と、一方では自然回帰的な海、水といったイメージ、その二つが同居しているところが、ジャックの表現における最大の特徴ではないか、などと考えたりもした。

先述のオフィシャルにジャックが書いた紹介文では、このアルバムを制作するに至った経緯が詳しく述べられているのだが、ジャックはそこで1998年にバンド(パール・ジャム)を辞め、音楽ビジネスからいったん身を引く決断をせざるを得なかった旨を述べている。そこには健康上の問題もあったが、彼は「自分自身の人生を生きるために、自分の身を捧げなければいけないと思った。それは癒しであり、自分や家族が『正しく』自分たちの人生を生きていく事」だったのだと言う。自分自身をヒールするための音楽。あるいは再生のための音楽。この作品は音楽的に意義のある優れた作品であると同時に、ジャック自身がどうしても作る必要があったパーソナルな作品でもあるのだ。

かつてはヒレルの死のショックから精神病院に入院していた事もあるジャック。mine-D自身も、「レッド・ホット・チリ・ペッパーズ・ファイル」(シンコー・ミュージック刊)に掲載されていたジャックの記事を読んで、心に強く思うところがあったのだが、彼が今元気にしていて、こうした形で音楽的にもクォリティの高い作品を生み出し、それに際して多くの友人達が集まったという事実には、強い感動を覚えざるを得ない。ますますこの人が好きになった。この音楽はずっと大切に聴いていきたいと思った。そんな作品。

このアルバムのディスク・ガイドへ

個別リンク:http://www.mine-d.com/article/archives/2004/10/attention_dimen_1.html|